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アンチヒーロー

フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』より

アンチヒーローantihero)は、フィクション作品における主人公または準主人公の分類のひとつ。

「優れた人格を持って、事の解決にあたる」といった典型的なヒーロー(英雄)の型から逸脱しているが、ヒーロー同様に扱われる人物である。

ウェブスター現代英英辞典に拠れば、1714年から使用されているMerriam-Webster's Collegiate Dictionary Merriam-Webster

概要

常識的なヒーローの属性、たとえば「正しい人」であったり、「強い人」であったり、「美しい/外見的にカッコいい人」である等を部分的あるいは全面的に裏切る主人公、あるいは主要登場人物をアンチヒーローと呼ぶことがある。この記事ではどのような人物がアンチヒーローと見なされてきたかを例をあげて説明するが、アンチヒーローについては明確な定義が見出されておらず「癖の強い主人公/登場人物」とアンチヒーローの境界は曖昧であり、読者や視聴者の主観に拠るところが大きいことには留意されたい。

歴史

いつ頃から、アンチヒーローに分類される主人公がフィクションに登場したのかは定かではないが、紀元前3世紀ロードスのアポローニオスによって書かれた叙事詩アルゴナウティカ』のイアソンアルゴナウタイは、他のギリシアの物語に登場する英雄たちよりも臆病で受動的であり、アンチヒーローであると分類する説がある。Haggar, Daley (1996). "Review of Infinite Jest". Harvard Advocate Fall 96.

アンチヒーロー

「正しくない」ヒーロー

物語の世界において、多くのヒーローは倫理的に優れている「よい」人物として語られるが、倫理的に正しくない行動をとるヒーローもまた数多く造形されてきた。それが極端な場合にアンチヒーローと呼ばれるものと考えられる。

例えば、大きな目標のために手段を選ばないという主人公類型が存在し、これは歴史上の人物に仮託されることも多い。『三国志演義』で天下の奸雄として描かれた曹操は、しばしばこのタイプの残忍な英雄として描かれてきたし、日本の戦国時代にあって全国統一事業を進めた織田信長はその残忍・激烈な性格も併せて描かれることが多い。国家統一のために権謀術数を駆使したとされるオットー・フォン・ビスマルクチェーザレ・ボルジア等といった歴史上、評価の分かれ易い人物等もこの例に該当する。アニメ漫画サブカルチャー作品でも例えば前者の意味では『DEATH NOTE』の夜神月コードギアス反逆のルルーシュ』のルルーシュ・ランペルージ、後者の意味では『機動戦士ガンダム』のシャア・アズナブルなど多くの類例をみることが出来る。 また、ピカレスク小説悪漢小説)の分野では、多くの場合主人公は最初から犯罪者であるが、この流れは、犯罪小説やフランスのシネ・ノワールやアメリカのギャング映画クライムアクションゲームなどでも同様であり、多くのアンチヒーローを生んできた。また、日本でもヤクザ映画(たとえば『仁義なき戦い』シリーズ)、バイオレンス小説(たとえば大藪春彦の作品群)などで窃盗や暴力や殺人などの犯罪に手を染めるヒーローが物語られてきた。これは遡れば盗賊集団を主人公に据えた歌舞伎の『白浪五人男』などを先例と見なすことができるかもしれない。このようなタイプのヒーローは、ダーティーヒーローダークヒーローバッドヒーローとも呼ばれることがある。極端な例では羊たちの沈黙レクター博士などは食人殺人を繰り返しているにもかかわらず、ヒーロー的に描かれている。 これ等のヒーロー達が、犯罪、悪事に至る理由は様々である。なんらかの絶望によるもの(『北斗の拳』の聖帝サウザー)、仲間の裏切や社会からの冷遇によるもの(漫画『子連れ狼』の拝一刀親子)、そしてその復讐のため(小説・映画『復讐するは我にあり』の榎津巌)、愛する者のため(『スターウォーズ』シリーズのダースベイダーことアナキン・スカイウォーカー)、あるいは職業として(漫画『ゴルゴ13』のデューク東郷

等である。また、本人の性格的な問題から組織をはみ出して法を逸脱する例もある(映画『ダーティハリー』のキャラハン刑事)。

「美しくない」ヒーロー

物語の世界において、多くのヒーローは外観的に優れている人物として語られるが、それを裏切るヒーローもまた少なからず造形されてきた。

風采の上がらない主人公としては、TVドラマの『刑事コロンボ』や横溝正史の探偵小説に出てくる金田一耕助などがあげられる。また、ヒーローの出自を魔物や妖怪などに設定する場合もあり、漫画の『デビルマン』等、禍々しい外見が描かれている。外観についての極北を行く主人公としては、「エレファント・マン」ことジョゼフ・メリックなどがいるが、こうした類例をアンチヒーローと呼ぶかどうかは議論が分かれるところである。

「強くない」ヒーロー

一般的にヒーローとして想像される人物像は、肉体的にも内面的にも強くて逞しい精悍なイメージである。しかし、肉体と精神のいずれか、あるいは双方の意味で脆弱で臆病なヒーローの例もあり、『新世紀エヴァンゲリオン』の碇シンジなどが該当する。こうした類例もアンチヒーローと呼ぶかは議論が分かれる。

また、コメディでヒーロー像を逸脱させた例もある。『ニッポン無責任時代』から始まる植木等主演の映画「無責任男」シリーズは、お気楽な性格と運の強さだけが取り柄の主人公が、追従とお世辞を繰り返しながら大活躍する物語であり、異色異能のヒーローぶりを発揮している。

アンチヒーローの実在モデル

こうしたヒーローは、評判を呼んだ実際の犯罪者がモデルにされているケースも少なくない。例えば、上記の『白波五人男』は江戸時代に起きた捕物がモデルであるし、『仁義なき戦い』も原作はノンフィクション小説である。アメリカでのカップル銀行強盗犯のボニーとクライドは『俺たちに明日はない』で映画化された。『大列車強盗』も実際の犯罪が評判を呼び、国外逃亡先でテレビ出演までした主犯が人気者になったことで映画化されたケースである。

義賊ともてはやされた鼠小僧のように、ある条件が合致した場合には、法を犯した犯罪者をヒーローとみなす庶民感情がそこに介在していると考えられる。つまり、国家や「お上」からみれば犯罪者であっても、庶民の味方であるという存在である。たとえば、漫画『クロサギ』の黒崎は、詐欺師だけをターゲットに詐欺を行い、TVドラマ『必殺仕置人』をはじめとする「必殺シリーズ」も、表の社会で裁けない悪人を非合法に成敗する。

こうした反逆的ヒーローに対する庶民の共感は、プロレスギミックにもよく利用されている。たとえば新日本プロレス蝶野正洋は、体制(会社)の方針に異を唱えて対立するキャラクターを演じ、タイトルマッチに関する反対を表明する。アメリカンプロレスでも、WWEスティーブ・オースチンがこうしたキャラクターを演じている。

また、「自らに課した掟(コード)にのみ忠実で、法的・社会的規則は無視する」という人物をアーネスト・ヘミングウェイはコードヒーローと呼んでおり、反逆的ヒーローの一類型としてその呼称が用いられることがある。

アンチヒーローとは異なるもの

「普段は駄目人間だが副業としての裏の顔は凄腕」という物語は、たとえばTVシリーズ『必殺仕置人』を始めとして数多いが、これは『スーパーマン』と同様に変身ヒーローの一種と考えられる。ただし裏稼業が非合法的なものであれば、その点ではアンチヒーローとみなせるかもしれない。アメリカン・コミックの登場人物である「デアデビル」ことマット・マードックや、バットマンが該当する。

また、物語の開始時点では駄目人間だったが物語の進行とともにヒーローぶりを発揮していくのは成長物語の一典型である。ファンタジーなどでも普通の少年や虚弱な少年が異界でヒーローになるという物語が多く見られるが(『ナルニア国物語』、『はてしない物語』など)、通常はそれらの少年を指してアンチヒーローとは呼ばない。ほとんどの場合、彼らは内面的あるいは外面的成長を遂げて異界から帰還するために、これも成長物語に属する。

関連項目

脚注

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