読み込み中...触媒(しょくばい、catalyst)とは、特定の化学反応の反応速度を速める物質で、自身は反応の前後で変化しないものをいうIUPAC。触媒がもつ作用(触媒作用、catalysis)自体を指す場合もある。
今日では反応の種類に応じてたくさんの種類の触媒が開発されている。特に化学工業や有機化学では欠くことができない。また、生物にとっては酵素が重要な触媒としてはたらいている。
1823年にドイツの化学者であるヨハン・デーベライナーは、白金のかけらに水素を吹き付けると点火することに気がついた。白金は消耗せず、その存在によって水素と空気中の酸素とを反応させることを明確にした。後に反応によって消費されても、反応の完了と同時に再生し、変化していないように見えるものも触媒とされた。
触媒は、通常では反応に参加しないような内部エネルギーの小さい分子を反応に参加させるので、見かけ上は反応の速度を増加させる働きを持つ。しかし原系(反応基質側)や生成系(生成物側)の化学ポテンシャルを変化させないので反応の進行する方向を変えることはない。すなわち自発的に進行する方向に反応の速度を増加させる働きを持つ。言い換えれば、自発的に起こり得ない方向への反応は触媒を用いても進行しない。例えば、室温において水素と酸素から水が生成する反応は、反応前後でのギブズ自由エネルギー変化 ΔG < 0 であるため自発的に進行し、触媒を用いて効率を上げることができる。一方、水が水素と酸素に分解する反応は室温では ΔG > 0 であるため、どのような触媒が存在しても自発的には進行しない。 ΔG > 0 となる反応を進行させるには外部から電気や光などのエネルギーを与える必要があり、場合によっては電極触媒や光触媒を利用して反応速度を向上させる。(記事 化学ポテンシャルに詳しい)触媒の良否は反応の収率や鏡像体過剰率で判断され、これらの率が 100% に近いほどよい触媒とされる。反応速度や触媒の安定性はターンオーバー数 (TON) で評価でき、TON が大きい触媒ほど優れている。また、原子効率が高いこと、反応条件が穏和であること、後処理において生成物との分離が容易であること、反応全体の環境負荷が低いこと、なども評価基準となる。
触媒は反応物と反応中間体を形成することで、反応に必要とされる活性化エネルギーの低い別の反応経路を生み出す。例えば水素分子 H2 は強い H−H 結合を持つため反応性に乏しいが、水素化や燃料電池の触媒となる白金の表面では水素分子よりも遥かに反応性の高い H·種を形成する。これにより、触媒が存在しない場合よりも著しく高速に反応が進行する。
また、反応を早くするだけではなく、複数の反応が起こりうる状態において、目的とする物質を選択的に得るために触媒を用いる場合も多い。触媒は特定の反応のみ高速化させるためである。例えば光学活性体の合成を行う場合には、不斉源となる BINAP やサレン錯体などの触媒が良く用いられる。2001年のノーベル化学賞が金属錯体触媒を用いた不斉合成に授与されたように、その重要性はきわめて高く評価されている。
触媒は、物質表面の特定の部位、あるいは分子上の特定の位置(活性サイト)に、反応させたい物質が吸着・配位することで効果を発揮する。このため、目的とする物質よりも吸着・配位力が強い物質が共存すると、触媒の活性サイトが消失し、効果が著しく弱められる。このような物質を触媒毒というIUPAC。
触媒とは反対に、存在によってある化学反応を遅らせる物質を、かつては負触媒(逆触媒)と呼んだ。しかし、負触媒自体が化学反応によって構造変化することなど、一般的な触媒の性質とは異なることから、現在では負触媒という用語は推奨されず、単に阻害剤と呼ばれるIUPAC。
触媒は目的の反応によって多くの種類が開発されている。状態での分類としては、溶液に溶かして用いる均一系触媒 (homogeneous catalyst) と、固相のままで用いる不均一系触媒 (heterogeneous -) に分類される。例えば、洗剤に配合されているタンパク質を分解するための酵素は前者、過酸化水素水を酸素と水へ分解する二酸化マンガンは後者である。均一系触媒は有機合成で比較的多く用いられ、不均一系触媒は化学工業で用いられることが多い。
化学・工業で用いられる触媒はほとんどが人工的に作られた物質であるが、生体内で進行する化学反応を触媒する物質も多く存在し、まとめて生体触媒と呼ぶ。生体触媒で最も重要なものはタンパク質を母体とする酵素であるが、生命の起源においてはRNAの触媒(リボザイム)が極めて重要な役割を果たしていたと言われている。また、抗体を触媒として利用した抗体触媒の研究も、1990年代から盛んに行われている。
均一系触媒には、適当な酸や塩基を触媒(酸触媒、塩基触媒)とするものや、金属錯体を利用するもの(錯体触媒)がある。金属錯体では配位子を替えることなどによって反応性の制御が可能である。例えば、カルボン酸とアルコールのエステル化反応には酸触媒が有効である。酸としては硫酸などの H+ を放出するブレンステッド酸を用いる場合が多いが、不斉反応などでは金属錯体などのルイス酸を使うことも多い。
また多核金属酸化物(アニオン)であるポリオキソメタレート(ヘテロポリ酸)も構造制御が可能であり、反応性を制御できる。有機金属錯体は一般に酸化雰囲気および熱に弱いが、多くのポリオキソメタレートはそれらに対し高い安定性を有している。
化学工業など、基礎的な化学物質を大量に生産する施設では、生成物の回収や、触媒の性能の維持が容易であるという理由から、不均一系触媒が多く用いられている。不均一系触媒は白金やパラジウム、酸化鉄のような単純な物質から、ゼオライトのような複雑な構造の無機化合物、あるいは金属錯体を固定化したものも使用される。
多くの場合、不均一系触媒は触媒表面で反応が進行する。したがって、触媒の効率をよくするためには、表面積を大きくすることが肝心となる。このため、高価な金属(白金、パラジウムなど)を触媒として用いる場合は、1–100 nm 程度の微粒子にして活性炭やシリカゲルなど(担体という)の表面に分散させ(担持し)て使用する。この方法は、そのままでは固体として使用するのが難しい金属錯体触媒などでも利用される。
具体例として、自動車には排気ガスに含まれる HC(炭化水素)、CO、NOxを分解・浄化するために白金、パラジウム、ロジウムもしくはイリジウムを主成分とする三元触媒が不均一系触媒として使用されている。
生体中で触媒として機能するタンパク質を酵素という。酵素を使った反応は水中で行えるため、有機溶媒の使用を減らすことができ、また錯体触媒に含まれるような重金属を使用しないことから、環境負荷の低い触媒として期待されている。実際にブタの肝臓などから得られる酵素は工業的にも触媒として利用されている。