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生神女

フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』より

本項では聖母マリアを指す、日本正教会の訳語としての生神女(しょうしんじょ)につき詳述する。他の内容については、以下に挙げるそれぞれの記事を参照されたい。

# 生神女との称号が奉られているマリアについての教派ごとに分けた概説 - 聖母マリアを参照。 # 全地公会議で確立された、正教会西方教会に共通する教義面の理解について - 神の母を参照。

# 生神女の称号が一部に含まれている大聖堂聖堂教会イコン祭日等について - 本記事内の関連項目を参照。


生神女(しょうしんじょ)とは、「神を生みし女」を意味する漢語的表現で、日本正教会の用いる訳語である。一般に言われる聖母マリヤの事であるが、日本正教会では聖母という表現は用いられず専ら「生神女」「生神女マリヤ」「生神女マリア」との表現が用いられる「聖母」…戦前・戦後すぐの時期には書籍や聖堂名で用いられているケースもあったが極めて稀である。現在では用例は一切みられなくなった。また、明治時代から現在に至るまで一貫して、祈祷書では「聖母」という表現は全く用いられない。正教会では生神女マリヤを神の母・第一の聖人として位置付けている。
Wikipedia画像へのリンク(アトス山のヒランダリウ修道院にある生神女マリヤのイコン。ダマスコの聖イオアンによるイコンの構図で、「三本手の生神女」と呼ばれるタイプである。左下に生神女のものではない手が描かれている。聖像破壊運動の時代、東ローマ帝国皇帝の策略によってイコンを描く手を切り落とされた聖イオアンであったが、生神女の庇護により手が回復したという奇蹟があったと伝えられる。この奇蹟に感謝してイオアンが手を描き加えたのがこのイコンの構図の始まりだとされる。)

訳語の概要

「生神女」の原語はギリシャ語「」(セオトコス)現代ギリシャ語読みを本項では採用する。古典再建音では「テオトコス」となる。であり、これは「神(:セオス)を生む者(:トコス)」という意味である。これは男性名詞であるが、教会スラヴ語「」(ボゴロージツァ)(これも「神(:ボーグ)を生む女(:ロージツァ)」の意)が女性名詞である事を反映し、直訳的に「生神女」と訳された。

日本ハリストス正教会では「聖母」という語は用いない。「生神女」「神の母」「永貞童女(「処女のままであった女」の意)」「童女」「童貞女」「女宰(じょさい)」「女王(にょおう)」といった表現が祈祷書には用いられており、日常的にも生神女マリヤと呼ばれる。これらの訳語が用いられる理由としては
  • 大主教聖ニコライの訳を尊重すべきである。
  • 「聖なる母」は1人ではない(例は多数あるが、例えば生神女の母アンナも聖人であり、「神の祖母」と正教会では呼ばれる)。
  • イイスス・ハリストス(イエス・キリスト)の母マリヤの称号「」:「神の母」は第三全地公会議での確認事項であり、これを尊重して精確な訳語を用いるべきである。
  • 海外正教会でも「」(セオトコス:生神女)・「the Virgin Mary」(童女マリヤ)・「」(ツァリーツァ:女王)等と呼ばれており、「Holy Mother」(聖母)とはまず呼ばれておらず、全正教会の標準的呼称に則るべきである。

等が挙げられている。なお、マリヤマリアの違いは転写の違いに由来するものであり、あまり日本正教会でもいずれを用いるかは拘られていない。但し、聖書・祈祷書や聖歌では「マリヤ」で統一されている。

用例

小讃詞(コンダク) 第八調
「常に福(さいわい)にして全く玷(きず)なき生神女、我が神の母なる爾を讃美するは真に当れり。ヘルワィムより尊く、セラフィムに並びなく栄え、貞操(みさお)を壊らずして神言(かみことば)を生みし実の生神女たる爾を崇め讃む。」
  • 「小讃詞」は、ハリストスキリスト)の事績・聖書中の出来事・聖伝・聖人を記憶するもの等、様々な種類のものが無数にあるが、ここでは生神女について最もよく用いられる小讃詞を引用した。祈祷・集会の終結の際によく歌われる聖歌・祈祷文である。
  • 「神言(かみことば)」とはギリシャ語の""(ロゴス)の日本正教会訳であり、ハリストスのこと。

日本正教会訳祈祷文における、「生神女」以外のマリアの称号

生神女マリヤに対しては、正教会では他にも様々な称号が用いられている。幾つかの例外はあるものの殆どの場合、聖書・祈祷書等における原語の違いに応じて訳語が逐一割り当てられており、原語を日本語から推定しやすいシステムとなっている。例えば、"Mother of God"には「神の母」の訳語が、"Theotokos"には「生神女」の訳語がそれぞれ当てられ、定訳として使い分けられている(聖堂名の翻訳などにはこうした定訳が当てはまらない場合もある)。

以下に挙げたもの以外にも様々な呼び方があり、組み合わせも含めると膨大な数にのぼる。

  • 生神女(しょうしんじょ)
  • 神の母(かみのはは)
  • 生神童貞女(しょうしんどうていじょ)
  • 永貞童女(えいていどうじょ)
  • 童貞女(どうていじょ)
  • 童女(どうじょ)
  • 処女(しょじょ)
  • 女宰(じょさい)
  • 女王(にょおう)
  • 至聖至潔(しせいしけつ)にして至りて讃美たる我等の光栄の女宰生神女(じょさいしょうしんじょ)、永貞童女(えいていどうじょ)マリヤ

脚注

Wikipedia画像へのリンク(ヴィクトル・ヴァスネツォフによる1901年の作品「生神女」。崇敬の対象としてのイコンではないが、作者の祖父がイコン画家であり、作者の父は司祭であり、作者自身も神学校に在籍していた経歴がある事を反映してか、伝統的なイコンの様式と世俗的な藝術とが融合した、世俗絵画の傑作である。なお、左右に描かれた天使セラフィムである。)

参考文献

  • 日本ハリストス正教会訳『我主イイススハリストスの新約』、1985年復刻。
  • 同『聖詠経』、1988年復刻。
  • 同『小祈祷書』、1992年復刻。
  • 高橋保行『ギリシャ正教』(講談社学術文庫)、1980年。

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